マニュアル化は企業にとって大切だが一つだけ問題がある。
マニュアルがあると人は考えなくなるという問題だ。インターネット技術の発達もこの傾向を後押ししている。
考えないと応用が利かなくなる
ある論文がある。
Scott D. N. CookとJohn Seely Brownが発表したものだが、二人によると、知識は人から人へ、書物から書物へ移っていく訳ではないとのことだ。
そうではなく、人はレクチャーや本の知識を道具のひとつとして考えながら、新しく知識を作り出しているという。
たしかに、泳ぎをいろいろ事前にレクチャーをされても、水に入った瞬間泳げる訳ではない。結局は、アップアップしながらなんとか泳いでいく感覚を身に付けるものだ。
営業でもマーケティングでも会計でも経営でも、なんでも同じだ。
そのまま知識が移るのではなく、知識をひとつの支えとして実践していく中で知識を作り出していく。
道具が優秀すぎると?
では道具が優秀すぎるとどうなるだろうか? ここでいう道具とはマニュアルやフレームワークやナレッジデータベースだ。
基本的に、苦労量を少なくその知識を体得できる。もちろんその通りで、それがマニュアルなどを作成するメリットだ。
しかし反面、道具が優秀すぎると試行錯誤することなく、実践ができてしまう。その結果、周辺知識が身につかない状況になり応用力が効かなくなる。
下記はユニクロで起こった問題だ。
子供連れのお母さんがユニクロに来て、「子供が具合が悪くなったので電話を貸して欲しい」と言った。店長はあろうことか「できません」とお母さんに伝えた。「私用電話は貸せない」というマニュアルに従ったためだ。
さすがに顕著な例だが、マニュアルで楽に一通りの仕事を覚えてしまうと、マニュアルがないとできませんという人間が出てくるのは事実だ。
自分で仕事を考えることができず、業務の改善もできないし、ましてや新規の事案にはまったく対応できなくなってしまう。
どうすればいいか?
なかなかなジレンマだが、おすすめの方法をご紹介しよう。
マニュアルの改良作業を必須にして、その改良具合を評価する
マニュアルは常に直さなければいけないものだ。新しくその業務を学ぶ人はマニュアルの改良点を指摘し、よりよいマニュアルを作成することを義務にするといい。
Wordか何かで用意をしておき、赤字を入れてもらうイメージだ。どの部分を反映するかは上司が決めるので、何人並行してやってもOKだ。
その改良点の質を評価するというものだ。
- よりわかりやすくするにはどうすればいいか?
- より効率的にやる方法はないか?
- 抜本的な改良はないか?
- そもそも無くせる業務はないか?
常に考えてもらいながら、マニュアルで仕事を覚えて貰えばいい。指摘がゼロであれば、もちろん評価はガクッと落ちる。
こうすると考えざるをえないし、業務を覚えながらでも改良点を探そうとする意思が働く。効果的な方法だ。
憲法を作っておく
もうひとつ効果的なのは会社の憲法を作っておくことだ。「憲法 = ミッションや行動規範」のことだ。
これらによる判断が最優先とされれば、マニュアル人間による残念な対応は大きく減る。
例えば、「お客様がまた来たいと思ってくれる店舗を作りあげる」という店舗の行動規範があったとしよう。そうすれば、正当な理由に対しての「電話を貸す」という対応は当たり前だ。
マニュアル人間にしないためにルールよりも上位のものを作っておくのがいい。
もちろん、「お客様がまた来たいと思ってくれる店舗を作りあげる」という行動規範にしたがって、積極的にルール外の値引きをするようならその社員は更迭されるべきだ。常識の範囲内でやりましょう、という話が前提だ。
まとめ
マニュアルやナレッジの蓄積と相反して起こる問題も必ずある。しかし、より良くするという視点に立てば、いろいろなことが可能だ。
ぜひマニュアル至上主義者ではなく、優秀な「人材」に育つ教育を実施していただければと思う。